
2.第一審での論点
1.投資者保護基金とは
週末の午後、とある喫茶店。佐藤先生とキムさんとリーさん、それに木村正治さんの4人が集まって話しています。
先生:前回は平成27年11月8日の説明会の話を伺いました。アーツ証券が破産した後、被害者達はどうしたんですか。
木村:被害を受けた私たちは、とりあえず何回か集まって、「被害者の会」を結成することになりました。損失の賠償を求め、消費者保護基金に対して訴訟を起こす運びとなったわけです。
リー:質問ですが、投資者保護基金とは、なんですか。
ナレーター:それでは、説明します。投資者保護基金とは、正式には日本投資者保護基金といいます。
投資者保護基金のホームページを見ると、以下のように書いてあります。
「証券会社は、お客さまからお預かりした金銭や株式、債券、投資信託などの有価証券を、お取引先の証券会社自身が持っている金銭や有価証券などの資産とはきちんと区分して管理することが法律上義務付けられています。これを顧客資産の「分別管理」といいます。
分別管理がきちんと行われていることによって、証券会社が破綻しても原則としてお客さまの資産には影響はなく、お客さまは破綻した証券会社から、自分の金銭や有価証券を返還してもらうことができます。
それでも万が一、何らかの事情で証券会社が破綻し、分別管理の義務に違反したことによって、お客さまの資産を円滑に返還できない場合、日本投資者保護基金は、お客様が返還を受けられなくなった金銭と有価証券の価値(時価)を合計して、お一人当たり1,000万円を上限に補償します。
このように、お客さまが証券会社に預けている資産については、分別管理制度と投資者保護基金制度という2つの制度によって保護されています。
木村:一人あたり1,000万円を上限として、その不足額を補償してくれるとのことですので、なんとか損失したお金の一部分でも取り戻したい一心で。まあ、弁護士を立てますので、さらに費用がかさみますが、仕方がないかなと。
キム:すると、投資者保護基金は、損害を受けた投資者に1000万円補填してくれたんですか。
木村:訴えを起こしたのですが、結果的には駄目でした。3戦全敗ですね。
リー::えー、なんでですか。
キム:しかし、説明を聞くと、何か投資者が証券会社がつぶれるなどして困ったときに、助けてくれそうだけど…。でも、結局預けたお金を返してくれなかったんですか。
木村:そうなんですよ。裁判所の言い分では、「顧客から集金したお金をいったん海外の別会社であるSPCに移動すれば、それで分別管理になる。したがって、管理義務違反していないから、損失金を補償する必要はない」と突っぱねたんです。まるで門前払いでした。投資者保護基金は、絵に描いた餅だったんですよ。
2.第一審での論点
キム:「おかしいですね。顧客から集金したお金をいったん海外の別会社であるSPCに移動すれば」云々って、海外へのマネーロンダリングのことですよね。第一審の様子について、もう少し詳しく聞かせてください。
木村:わかりました。
第一審は、2021年9月29日に東京地方裁判所で行われ、結果は、敗訴でした。
我々原告側は、当然勝てると思っていただけに、おおいにがっかりしました。
次は、判決後に弁護団から提出された判決理由の要旨と、問題点をまとめた物です。
判決1 診療報酬債権は、単なる「社債」なので、裏付けとして診療報酬債権が確保されている必要ない
裁判所は、本件レセプト債について、SPC、すなわち診療債権を発行することを目的として設立された特別目的会社が発行した、単なる社債、すなわち金銭債権であって、その裏付けとして診療報酬債権が確保されていることは必要ないと判断しました。
したがって、顧客が預託した金銭を証券会社が社債発行会社に払込みをすることをもって顧客の預託の趣旨は満たされる、それが顧客の合理的意思と認められるというのが裁判所の判断です。
判決1の問題点
しかし、我々投資家は、診療報酬債権の裏付けがあるからこそ、本件レセプト債の購入を決断し、貴重な資産をその購入に充てたのです。
この点を考えると、この判決は、我々の投資時の判断とは遠く離れた不当なものとなります。
判決2 分別管理義務違反はなかった
裁判所は、分別管理義務については、金商法の規定に従い、顧客資産を自己の固有資産と分別して管理している限り、顧客の投資判断に沿わない形で移動していたとしても、分別管理義務違反はないと判断しました。
判決2の問題点
しかし、この判断によれば、証券会社がいったん顧客資産を分別しさえすれば、その後に私的流用をしたとしても、分別管理義務違反は生じないことになってしまいます。この判断は、皆さまの意思を無視した極めて不当なものと言わざるを得ません。
木村:以上の弁護団の考えも踏まえて、我々原告側は、今回の一審の判決結果を不服として、直ちに控訴しました。


